DailyReport巻頭言

2019年6月号 月初の言葉 諫諍(かんそう) 【DailyReport巻頭言 第105回】

医療法人共栄会名手病院

今月の表紙:医療法人共栄会 名手病院(和歌山県)

前回は部下たちの忠告に耳を傾け、積極的に登用した極めて稀であった唐の二代皇帝、太宗の人柄について述べました。今回はそのトップに使える臣下について述べたいと思います。

諫諍(かんそう)という言葉があります。目上の人に対し、たとえ言い争うことになってもその不正をただそうとすること、です。わかりやすく言うと意見具申です。

しかし、太宗の時代にこれはなかなか厄介な課題でした。何しろ皇帝の意に沿わないことを言って「逆鱗に触れる」(逆鱗とは、通常はおとなしい竜の喉の下に一枚だけ逆に生えた鱗があり、それに触れると激怒して人を殺してしまうこと)と殺されてしまうからでした。

よって諫諍とは自らの命をかけて重い職務だったのです。これは、天子、皇帝の過ちや不正を正すための官職として諫大夫(かんたいふ)や諫議大夫(かんぎたいふ)として制度化されており、そのあり方も体系化されていたのです。

畿諫(きかん)とは、子供が親に使うような穏やかな諫め方、規諫(きかん)は、枠にはめるきつい諫め方、切諫(せっかん)は、心を込めて強く諫めるあり方、泣諫(きゅうかん)は、泣いて諫めるあり方、直諫(ちょっかん)は、相手の思いに逆らって諫めるあり方、強諫(きょうかん)は、相手の思いに逆らって諫めるあり方、極諫(きょっかん)はこれ以上ないぎりぎりの諫め方、死諫(しかん)は死んで主君を諫めるあり方を言います。

この上の顔色を見るというのは未だにどの組織でも当たり前のように存在します。

太宗は以下のようなことを述べています。

詔勅(しょうちょく)如(も)し穏便ならざる有れば、皆須(すべから)く執論(しつろん)すべし。此来(このごろ)、椎だ旨(むね)に阿(おもね)り情に順うを覚ゆ。唯唯(いい)として苟過(こうか)し、遂に一言の諫諍する者無し。豈(あ)に是れ道理ならんや。若し惟(た)だ詔勅に署し、文書を行うのみならば、人誰か堪えざらんや。何ぞ簡択して以て相委付(あいいふ)するを煩わさんや。今より詔勅に穏便ならざる有るを疑わば、必ず須く執言すべし。妄(みだ)りに畏懼(いく)すること有り、知りて寝黙するを得ること無かれ。

(『貞観政要』政体)

(現代語訳)
もし詔勅(天子の命令)に不適当なものがあれば、みな必ず十分に意見を主張しなければならない。このごろ、ただ天子の命におもねり、天子の感情に従う傾向があるように思う。言われるままに文書を通過させ、とうとう一言の諫諍をする者さえいない。どうしてこれが道理と言えようか。もし、ただ詔勅に署名し、文書を回すだけならば、誰にでもできるであろう。どうしてわざわざ優秀な人を選び重要な任務を与えるというような煩わしいことをする必要があろう。今後、もし詔勅に不適当なところがあるのではと疑問があれば、必ず意見を主張しなさい。むやみに恐れ慎んで黙ったままでいてはならない。

今も昔も、言われたことだけをやる、言われたこと以上をやる、の境界線に上に立つ人は頭を悩ませてきたのです。

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ABOUT ME
堀田慎一
経営コンサルタント/MBA/大阪市立大学大学院非常勤講師 1992年より2015年まで大手経営コンサルティング会社にて勤務。うち2002年から2005年まで一般財団法人医療経済研究・社会保障福祉協会医療経済研究機構にて勤務。2016年より一般社団法人国際福祉医療経営者支援協会代表理事。