看護師さんからは、「大便をした時は遠慮なくナースコールしてください。どんどん出してよいですよ。いつでも行きますから」とも言われていたが、それは結果論であり、対患者の関係であって、患者本人は出すまでの心労が大きいのである。しかし苦労して、「便を出しました。処理をしてください」と、コールボタンを押したことも度々あった。
「大分出ていましたか?」
「小さい石ころのようなウンコだけですよ」
「そんな筈がないですが」
「それは気のせいですよ」
ナースは小粒の石ころをつまみ上げ、おしめに包み込んだ。私の期待を裏切る結果なのだ。反対に、上記のように気張ったためモリモリ出た確かな感触を得たので、それをおしめに置いたままで体を左右に動かすと泥をこね返すようになると思い、体を動かさずに小一時間我慢したら(便の排出が早すぎた)、想定した時間に看護師長が来ておしめの取り替えをしてくれたことがある。
「大分出ていましたか?」と聞いた。
「自分はどう思っていますか?」
「モリモリでた出た感じです」と答えた。
「そう思えばそれで良いでないですか」
突き放したような師長の言葉だった。私の奮闘を誉めてくれればよいのに・・・。
ナースコールをすると往々にして「ちょっと手が離せないので少し待ってください」とか「皆さんの食事が済んだら伺わせますのでそれまで待って下さい」と、コールバックされる。「伺わせます」とは、おしめ交換専門の女性パートか新入りの男性スタッフに行かせるよう伝達しますという意味である。
ところが、半時間待っても来ないことや次の定刻までスキップされることがある。意地悪されて来ない訳ではないと善意に解釈しても被害を受けるのは当方だ。「伺わせる」ことの伝達忘れが多いと私はみた。
ある時は、新入りの男性スタッフが一旦おしめ交換をしようとしながら「ちょっと待って下さい。」と言ってベッドを離れて出て行ったまま、私は2~3時間待ったが その日は遂に来なかった。翌日、院長に「コールしてもすぐ忘れられることや、無視されたこともありますよ。しっかり統率して下さいよ。」とクレームしようと思ったが、言いつけるとその男性が特定され、病院からの評価に差し障ると思い直し、次に来たときに、 「このあいだは待ちぼうけさせられたが、どうしたのか」 と直接に詰問しようと待っていた。しかし、1週経っても現れなかった。新入スタッフなので辞めたかと思ったが2週間後に現れた。私は今更何も言わなかった。
夜定刻8時頃(回って来る時刻は9時15分前と想定)のおしめ交換のタイミング測が適切かどうかが私の最大の難問になる。もし忘れられた場合は、翌朝4時まで、下手すれば8時間待ちになることを覚悟しなければならないからだ。しかし、丁度想定時刻に、部屋に見回りに来た初老の女性パートに、「ヘルパーさん、すみませんがおしめ交換してくれませんか」と声を掛けることができ、その都度「はい。ちょっとおしめを取ってきますと彼女は言って、すぐ交換用おむつと汚物入れのバケツを持って来てくれたりした。
風采の上がらない猫背のヘルパーさんだが、「貴女を、ヘルパーさんでなく小母(おば)さんと呼んで良いですか?」と阿(おもね)るように問うたら、快諾を貰った。その際、小母さんは「夜勤が多いから必要の時はいつでも指名して呼んで下さい」と、嬉しいことを言ってくれた。申し訳ないが、その小母さんの名前は、今は忘れた。その時、ノートにつけておけばよかったが、病院時代にはノートもペンも持ち合わせていなかった。
スタッフから耳にしたが、ナースコールするとその度に料金がチャージされると聞き、やはり、極力しないことが得策なりと思った。おむつ交換のタイミングを測ることに懸命だったのはそのことにも原因した。
次回へ続く・・・
大山 Tak 卓 1931年生まれ。
介護ホームローズ(仮名)入居者。東京大学法学部卒。国税庁入庁(大蔵事務官)、税務署長。エッソ石油(現エクソンモービル社子会社)税務部に転職、東京及びニューヨーク本社在勤。その後、ファイナンス会社数社の経営に参画。対米、カナダ、香港の投・融資・契約業務実施。国際経営コンサルタント。
編集者:野口 Kao 廣太。1986年生まれ。介護ホームローズ(仮名)施設長。理学療法士。デンマーク国立Egmont校卒。スヌーズレン施設設立。教員アシスタント。デンマーク福祉施設にて障碍者、高齢者への支援を実施。
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