実録 蘇生した介護老人

第4話 寝間着 -実録 蘇生した介護老人-

蘇生した介護老人第4話寝間着

入院患者には当然のことだが、私の経験では日がな一日寝間着で過ごす入院生活をしたことは無かった。夜に限らず日中も寝間着を着ている生活のことだ。「寝間着」は、今は陳腐化した日本語であり、現代の都会人はあまり使用しない単語だと思われる。使っているのは西洋語のパジャマだ(ピジャマという人もいる)。

おしめ交換より頻度は少ない週1回か2回かだが、寝間着の着せ替えがあった。入浴に代わる「からだ拭き」がなされた。嬉しい時間だった。女性スタッフが頭から足先まで熱いタオルで丁寧に払いてくれる。タオルは熱い湯を入れたバケツで何度も絞り直している。体は仰向けから左右に転がせられる。足先の時は、片膝を立てて他方の足を組んだが相手はどう思ったかは分からない。

「体を拭いていただくのは本当に有難い。スタッフさんは重労働でしよう!」と謝意が迸(ほとばし)る。

ところが、長く寝ていたため腰の裏側が床擦れになり、病院の院長が治療することになった。寝間着をはだけて治療を受けるのだが、痛さに絶叫せんばかりだった。床擦れで3センチばかりの円形(と思われる)膨れて硬くなった部分をヤスリ状のもの(見えていない)で剥ぎ取るのだ。院長が無言かつ非情にオペレーションを行った。「痛い、痛い」と叫んだが、野戦病院であればとてもこんなものではないだろうと想像し、昔の軍国少年は痛みに耐えた。これだけ痛いのだから先に麻酔の注射を打ってくれれば良いのにとも思ったが、野戦病院では麻酔などは使われることはなかっただろうと思い直した。

少し前に、別の部屋から大声で10分間も「痛い、痛い」と激しく叫ぶ男性と、「殺される、殺される!おかあさん助けて!」と泣き叫んでいた女児がいたことに思いを馳せた。

二人は私と同じオペを受けていたのだ。
私のオペは1週間後にもう一度鑢(やすり)をやられたが初回より苦しくはなかった。院長に「大分良くなった」と自慢げに告げられた。

その後は塗り薬だけで済んだ。看護師さんから床擦れを褥瘡(じょくそう)という専門用語を聞き、言葉は知っていたが漢字は知らなかったので尋ねたら、その場でメモ用紙に書き留めてくれた。漢字を書けなくなる人が多いなか、感心した。長期入院患者の多くが褥瘡を患うのだから看護師さんにとっては常識なのだろう。

次回へ続く・・・

 

著者プロフィール

大山 Tak 卓 1931年生まれ。

介護ホームローズ(仮名)入居者。東京大学法学部卒。国税庁入庁(大蔵事務官)、税務署長。エッソ石油(現エクソンモービル社子会社)税務部に転職、東京及びニューヨーク本社在勤。その後、ファイナンス会社数社の経営に参画。対米、カナダ、香港の投・融資・契約業務実施。国際経営コンサルタント。

編集者:野口 Kao 廣太。1986年生まれ。介護ホームローズ(仮名)施設長。理学療法士。デンマーク国立Egmont校卒。スヌーズレン施設設立。教員アシスタント。デンマーク福祉施設にて障碍者、高齢者への支援を実施。

 

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ABOUT ME
堀田慎一
経営コンサルタント/MBA/大阪市立大学大学院非常勤講師 1992年より2015年まで大手経営コンサルティング会社にて勤務。うち2002年から2005年まで一般財団法人医療経済研究・社会保障福祉協会医療経済研究機構にて勤務。2016年より一般社団法人国際福祉医療経営者支援協会代表理事。