DailyReport巻頭言

2019年8月号 月初の言葉 慎独 【DailyReport巻頭言 第107回】

社会福祉法人光栄会 栄寿苑

今月の表紙:社会福祉法人光栄会 栄寿苑(和歌山県)

「人を雇う経営者は法人を守ることを考え、雇われる人は自分を守ることを考える」ということが言われます。

経営者は結果がすべてであり、その責任が問われることにより逃げ場がありません。しかし経営者以外の者は、何らかの問題で失敗をしたとしても言い訳や他者のせいにして逃げる、という場合があることを経営者ならば何度かは経験しているのではないでしょうか。

経営者と非経営者の違いの最大の一つがこの「責任の重み」です。しかしその臣下である部下が経営者と一緒に経営の行く末を真剣に考えてくれるのであれば、これほど心強いものはないのです。そして反面、経営者ならばその一切の責任から逃れる術はない、という覚悟が必要です。

貞観五年、太宗 侍臣に謂いて日く、「国を治むると病を養うとは異なること無きなり。病は人愈ゆるを覚ゆれば、弥々(いよいよ) 須く将護すべし。「若し触犯(しょくはん)有らば、必ず命をおとすに至らん。国を治むるも亦た然り。天下やや安ければ、尤も須くきょう慎すべし。若し便ち驕逸(きょういつ)すれば、必ず喪敗(そうはい)に至らん。今、天下の安危、之を朕につなぐ。「故に日に一日を慎み、休しとすと難も休しとすること勿し。然れども耳目股肱(じもくここう)は、卿の輩に寄す。既に義一体に均し。宜しく力を協せ心を同じくすべし。事安からざる有らば、極言して隠すこと無かるべし。もし君臣相疑い、備に肝かくを尽くす能わずんば、実に国の大害為るなり」。

(『貞観政要』政体)

(現代語訳)
貞観五年、太宗がおそばに仕える臣下たちに言われた。「国を治めるのと病気を治療するのとには、何の違いもない。病気は、人が治ったかなと思ったときこそますます体を大切にしなければならない。もしも医者から禁止されていることを破るようなことがあれば、必ず命を落とすことになろう。国を治めるのも同じである。天下がやや安定しているときこそ、最も恐れ慎まなければならない。もし気持ちがおごり心が緩めば、必ず滅亡に至るだろう。今、天下の安危は、私にかかっている。だから、毎日、その日を慎み、人から立派だと褒められても、決して立派だとは思わない。しかしながら、私の耳や目、手足は、すべてあなた方を頼りにしている。すでに義としては、[私とあなた方は]一体同然なのだ。力を合わせ心を同じくしなければならない。不安に思うことがあれば、極言(思う存分述べる)して隠すことがないように。もし君主と臣下がたがいに疑って、腹を割って十分に話すことができないようであれば、それこそ国の大害なのだ」。

医療に携わる方々にはよくわかる話ではないでしょうか。国家の統治と病気の治療とは、一見関係がないように思われます。しかし、太宗は、やや安定したかなと思う頃が、実は最も危ない、という点に共通項を見出すのです。病状が重いときは、誰もが医者の言うことをよく聞き、体をいたわります。ところが、快方に向かったかなと思った頃、油断が生ずるのです。お酒や喫煙、暴飲暴食のたぐいを少しくらいはいいだろうと、自ら禁を破ってしまうのです。これではそれまでの努力も水の泡となってしまいます。

国の統治は、これらのことと何ら変わらない、と太宗は戒めたのです。そして、そうならぬよう、自分(太宗)と臣下たちは一心同体となり、自分に向かって忌揮のない意見を述べるよう訓示するのです。

太宗はこの慎独(独り慎むこと)をきっと部下に申し渡しながら自らへの戒めとして強く心に秘めていたのだろうと思うのです。

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ABOUT ME
堀田慎一
経営コンサルタント/MBA/大阪市立大学大学院非常勤講師 1992年より2015年まで大手経営コンサルティング会社にて勤務。うち2002年から2005年まで一般財団法人医療経済研究・社会保障福祉協会医療経済研究機構にて勤務。2016年より一般社団法人国際福祉医療経営者支援協会代表理事。